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技術革新が進むOOH(屋外広告)


 駅のフォームや、電車、ビルの側面に掲出されている大きなポスターや看板、これらを総称して、OOH(屋外・交通広告)といいますが、日本国内のOOHの技術に、昨今、変革が起きております。


従来のOOHは、掲出に莫大なお金を必要とするので、そもそも大きな予算を持った事業でないと、実施が難しい印象でした。


更に、掲出した広告を誰が見て、誰が購買に辿り着いているのか、といった分析が難しく、掛けたコストに対して回収できているのか、効果が分かりにくい手法でした。


インターネット広告と比較した時に、費用面・分析のしやすさを考えると、昨今は踏み込みにくい施策だったかもしれません。


2019年に電通が発表した「2019年 日本の広告費」では、インターネット広告の総費用は、OOHを含んだプロモーションメディアの総費用と、ほぼ並んでいます。


参考記事:日本の広告費、インターネット広告費がついにテレビメディア広告費を超える【電通調べ】


日本国内では、OOHを管理している事業者が、細分化されているなどの理由で、なかなか技術革新が起きにくかったという背景もあります。


これらの状況から、少し伸び悩んでいるかに見えるOOHですが、昨今のテクノロジーの進化によって、日本国内でも潮流が変わりつつあります。
 
 

ターゲティングできるOOH


 インターネット広告では、生活者が居る場所、性別、年齢、趣味趣向、自社のホームページに訪問したことがある方など、実に細かくターゲティングして広告を出稿することが可能です。


こういったターゲティング上の細かさも、インターネット広告に多くの予算が注ぎ込まれるようになった要因の一つかと思います。


しかし、最近のOOHの技術では、インターネット広告に勝るとも劣らないくらい、ターゲティングの精度に変化が起こっております。


NTTドコモと電通が共同で提供している「LIVE BOARD」というサービスは、モバイルから得た情報と、掲出されているOOHの位置情報などを組み合わせて、特定の看板を見た生活者を計測できたり、逆に、見てほしい生活者をねらって、広告を掲出できるそうです。

参考:LIVE BOARDのサービスページ


こういったデジタル技術を組み合わせたOOHを称して、”デジタルOOH(DOOH)”というそうです。実は、海外では以前から存在していた領域でしたが、日本では、先述の通り、広告自体の管理構造が複雑だったため、なかなか提供ができなかったそうです。

参考:ITmedia「“届けたいターゲット”を指定できる屋外広告とは? LIVE BOARDが挑む、デジタル看板の革新」
 
 

TVCMにも起こっている技術革新


 OOHは、これまでの広告業界の言葉で言うと、不特定多数に向けた”マス”広告の領域になるかと思いますが、同じマスである、TVCMにも、変化が起こっております。


ラクスル株式会社が提供する「ノバセル」は、運用型のTVCMです。


運用型広告を一言で言うと、流しながら量を調整したり、内容を修正したり出来る形式の広告のことです。


インターネット広告も、ほとんどがこの”運用型”であり、映像を作って放映枠を購入したらあとは流すだけという、これまでのTVCMとは、この面で大きく違います。


効果がどれくらいかも分からない放映枠に、多額の資金を投下してCMを打つことは、よほど財力がないと、実施できません。なので、TVCMは、大手や業績が非常に好調な企業でないと、なかなか実施できませんでした。


しかし、この「ノバセル」のような運用型TVCMは、映像や放映量を細かく調整できたり、効果分析も可能になっております。


CM制作料も含め、最低必要予算はおよそ1,000万円~と記載がありますので、まだ「ちょっとインターネット広告でも流してみようかな」という金額感とは違いますが、この分野でも、技術革新を垣間見ることができます。
 
 

マスとマスでない広告の境界


 小規模なビジネスの広告では、これまではなかなか候補に上がりにくかったOOHやTVCMも、こうして見ると、状況によっては選択肢に入るケースも出てくるかもしれません。


マス広告という意味でいうと、新聞や雑誌といった紙面では、私の知る限り、まだターゲティングや分析技術に変化は見られない印象ですが、例えばSpotifyなどをメディアとした音声広告では、株式会社トライバルメディアハウスが提供する「Voice Bird」もあったりと、マスの中でも細かな戦略を打てるようになってきております。


少し飛躍した言い方になりますが、こうなってくると、マスとマスでない広告の境目が、少し曖昧になっていくというのが、今後の5年くらいで日本の広告業界に起こる、変化なのかもしれません。


DOOHの技術は2020年に提供が始まったばかりですので、まだこれから技術が開発されると思いますし、サービスラインでも、もっと利用しやすい形も出てくるかもしれません。


そういった時に、伝えたい方に、適した伝え方を正しく選択し、丁寧に情報を届けられるよう、今後もいろいろなメディアの動向を見ていきたいと思います。


生活者にとって幸せな街の景観や、メディアの佇まいを保つことも、忘れたくない点です。


もし広告が、生活者にストレスのない形で語りかけ、生活者が笑顔になるような購買が行われる社会になるのならば、こういった技術も、ぜひ積極的に利用してまいりたいと思います。

ハナタ